ペルーの参加する観客たち

ペルーの子どもたちの舞台への反応はとてもビビットだ。舞台から俳優が問いかければ元気よく応えるのは勿論だが、それだけでなく、誰かが主人公に悪さを仕掛けようとしている場面では、主人公に注意を喚起するし、追いかけっこやかくれんぼの場面では、「あっちだ、あっちだ!」と盛んに声を掛けて、手助けしようとする。

ペルーの子どもたちには、日本の子どもたちにはみられるように、ほかの観客に注目されたら恥ずかしいとか、あるいはこんな公共の場で大きな声を出すべきではないのでは、といった躊躇(ためら)いがない。幼稚園児から小学校高学年くらいまで、かなりの年齢幅の子どもたちが、そうなのだ。

パロサントの場合、使用しているホールが小さく、舞台と客席が物理的に近いことも幸いしている。より大きな区立文化会館のようなところでは見られない、より親しい関係が成立している。たとえば、舞台で男の子(役の俳優)が、女の子(役の俳優)のものを奪ったりすると、客席のおませな女の子から、「女の子には優しくしなければダメなのよ!」と注意が発せられたりする。まるで、近所の悪ガキを叱っているかのようだ。

こんな調子で、幼い観客たちは自由に登場人物たちを応援したり批判したりしている。特別な仕掛けを導入しなくても、ごく自然に観客が演劇に参加する空気が生まれているのだ。ここでは演劇が息づいている――偶然に客席に集まった人々が、舞台を媒介して、共通の価値を確認し合ったり、あるいは違う価値観の持ち主を認知したりできる、そう思わせる空気がある。

しかしながら、こうした場に集まってくるのは社会のごく一部の階層のみであり、こうした場で演劇が提供できる交流は極めて限定的にならざるをえない。ペルー社会の深刻な問題が階層による分断であることを考えれば、ペルー演劇の可能性を知るためには、もっと別の場所を探らなくてはならないだろう。(了)