観客志向の気の長い公演スタイル

同劇団は2009年9月以来、1本の作品を3カ月近くに渡って、毎週土日に1回ずつ上演するというスタイルを採っており、驚いたことにほとんど休演期間をおかない。年間4本の作品をそれぞれに高い完成度に磨いた上で次々舞台に掛けることができるのは、アベハ時代の蓄積があればこそだろう。ただし、4本のうち3本は前年までに上演したものの再演だが。

公演会場は、特定の文化センターのホールを使っている。このホールは週末の夜や平日は大人向けの演劇や講演などに使用されているのだが、週末の夕方はこの劇団のために独占されているといえる(上演は午後5時からで、だいたい50分程度の上演時間)。

ホールは多目的ホールでパイプ椅子を並べて仮設の客席を作っている。客席数は最大120人という。学校が長期休みの期間中など満席に近くなることもあるが、20人に満たないようなガラガラの時もある。

収益の観点から考えたら、このような気の長い公演スタイルは非効率だ。おそらく、ホール側の支援(ホールは教育省関係の職員のための共済組合のような組織の施設)やその他の援助のもとに成り立っているのであろう。観客にとっては、各作品の長い公演期間のなかで自分の都合の良いときを選んで出掛けることもできるし、あるいは、なんの事前の情報収集もせずにとにかく週末5時にそこへ子どもを連れて行けば、質の良い演劇が見られるという場所が提供されているわけで、実に快適である。

入場料は大人20ソル(600円程度)、子ども15ソル(450円程度)。子ども料金は、リマのスターバックスで飲むコーヒー2杯分くらいに相当するが、安い食堂なら定食(メニューと呼ぶ)を2回食べてもおつりが残る。

作品のテーマは道徳的なものが多いが、特に環境破壊の問題に焦点が当てられている。あるインタビューでイスマエルは、劇団の名前には「環境を浄化する木」という意味が込められていると応えている。「環境」が必ずしも自然環境だけを意味するとは限らないが、環境問題は彼の主な関心事なのだろう。

これまでに、アルゲダスの収集した民話に材を採って、土壌汚染を告発する『アチケー 乾いた地面』(Achikée, la tierra seca)、樹木の保護を訴える『サカタプム』(Zacatapum)などの作品が上演されている。

また、今年7月からは、ブレヒトの『コーカサスの白墨の輪』をベースにした、『白墨の輪のはなし』という作品の再演が始まった(スペインの劇作家アルフォンソ・サストレ(Alfonso Sastre)の『棄てられた人形』にもインスピレーションを得ている)。これもまた、環境問題に焦点を当てているが、イスマエルのもう一つのキーワードはブレヒトではないかと思わせる作品だ。